肉を食べるのをなるべく減らそう、と言うと、「でも体にとっては必要でしょ」「食べないと栄養不足になるのでは?」なんて心配する人たちがいる。人間は、何をどの程度食べればいいのか……いろんな研究、いろんな説があるけれど、現代科学は得てして「木を見て森を見ず」になりがちだ。あまり近視眼的にならず、広い視野で物事をとらえることが大切だとボクは思う。まずは、「ヒト」も動物の1種であるという基本を踏まえたうえで、この「ヒト」という種の食性を考えてみよう。
動物の食性を表す歯
それぞれの動物には食べるべきものがある。パンダは笹を、コアラはユーカリを、牛は草を、ライオンは動物を食べる……それが動物の食性だ。草を食べるべき牛が、人間の都合で肉骨粉を食べさせられればBSE(いわゆる狂牛病)になるし、トウモロコシを食べさせられれば胃潰瘍になる(だから畜産場で飼われているほとんどの牛が胃潰瘍だ)。自然に反する食事が病気をつくり、自然な食事が健康をつくる。こうした動物の食性を考えるための重要なヒント、それは「歯」だ。
草食動物の歯と肉食動物の歯とでは、形態がまったく違う。肉食動物は奥歯まで尖った牙のようになっているのに対し、草食動物の歯は人間の臼歯や前歯にそっくりだ。歯を見る限り、人間は肉食動物よりは、草食動物にずっと近い。人間の糸切り歯は、肉食の名残をとどめていると考えられるので、ヒトは草食動物に近い雑食動物だ、といえるだろう。
昔のお弁当箱の割合で
ただし牛などの草食動物が、草の繊維セルロースを分解する酵素を持っており、草からエネルギーを得ることができるのに対し、人間はそれができないので、草を主食にはできない。では、人間の主食は何か、それが穀物だ。
臼歯は穀物をすりつぶす歯、前歯は草を噛み切る歯、糸切り歯が動物性食品を食べる歯、と考えれば、ヒトという動物の食べるべきものの割合が見えてくる。臼歯は親不知を入れて5本。抜いてしまった人では4本だから、
主食(穀物):副菜(野菜、海草など):主菜(肉・魚・大豆など)
=5または4:2:1 となる。
昔のお弁当箱はちょうどこんな割合だったことを中年以上の人は覚えているだろう。ご飯が半分以上を占めており、おかずのほうが少ない、というのが標準的なお弁当だった。そしてそれこそが、ヒトの自然の食性に則った、正しい割合のお弁当だったんだ。今巷で売っているお弁当は、ご飯よりもおかずの方が多く、割合が逆転しているね。ほとんどの現代人がおかずの食べ過ぎ。肉の食べ過ぎや油の摂りすぎで健康を害している。今の野菜は昔の野菜と比べ、ビタミンやミネラルの含有量が半減している(農薬や化学肥料による土壌の劣化のせいで)ことを考慮すると、野菜がもう少し多くてもいいかもしれないが、最低でもご飯が全体の半分にはなるように配分しよう。動物性食品は実はほんのちょっとだけ食べればいいんだ、ということをぜひ覚えておきたい。
この割合で食べることで、健康維持が簡単になり、太っている人は自然にスリムになっていく。太りたくないからご飯の量を減らしている、という人がいるけれど、その方法は大間違い。ご飯をしっかり食べて、肉を減らすことこそ、すっきりスリムになるための確実な方法だ。
自国内でまかなえる畜産物で十分
もしも何らかの事情で輸入がストップし、食料を完全に国内で自給しなければならなくなった場合、何をどれだけ食べられるか、国が試算したものがある。それによれば、魚は毎日一切れ(84g程度)食べることができるが、肉は9日に1食、1日あたり12g程度。卵は1週間に1個(1日7g程度)しか食べられない。でも、ヒトの食性を考えれば、動物性食品はこれでも多すぎるくらいなわけだ。
他国に依存したり迷惑をかけずに食べられる量はこのくらい、ということを肝に銘じて、特に畜産物の消費を抑えていきたいものだね。
〇一度に食べるべき肉・魚の量は?
ご飯1人前は160g程度が標準だ。主食:主菜は5:または4:1が適正なので、一度に食べるべき肉または魚の量は、およそ30~40g程度になる。
ちなみにケンタッキーフライドチキンの可食部(骨を除いた部分)平均は87gだそうだ。30~40gといえば、小さな鶏の唐揚げ1個程度。さんまなら1/3匹程度だ。
〇大豆等でもOK
人間の糸切り歯が尖っているとはいっても、本物の肉食動物の歯と比べれば、尖り方ははるかに穏やかだ。そのことを考えると、3度の食事の度に必ず動物性食品を食べる必要はないんじゃないかな。肉や魚は1日1回で、残りの2回の主菜は豆腐やお麩などを食べる、という程度がむしろ無難だろう。
〇お弁当箱に詰めてみる
現代人の多くがご飯を少なく、おかずを多く食べることに慣れてしまっている。適正な割合で食べるためには、練習が必要かもしれない。お弁当箱に詰めてみると、割合がはっきりとわかるから、しばらくはそうやって目で量を確認するようにするといいだろう。