畜産品とは、肉やその加工品(ハム、ソーセージなど)、乳製品、卵などのことだ。畜産品の生産は、現在の地球環境にとってもっとも大きな負担となっている。
「2.地元のものを食べよう」のところで言ったとおり、環境のためには、フードマイレージも、バーチャルウォーターも、少なければ少ないほどいいが、この2つはどちらも食料輸入が多いほど、数値が上がる。つまり、環境への負荷を減らすためには、食料輸入は少ないほどいい。
しかし現実には、日本は大量の食料を海外から輸入している。そのうちもっとも大量なのは何だと思うかい? それは、コーヒーでもバナナでも、ワインでもチーズでもない。家畜飼料だ。
国産肉でも飼料は輸入
日本人は、自分たちが食べるコメ(800万トン)の2倍近くのトウモロコシ(1464万トン)を輸入しているが、その3/4が家畜飼料になる。大豆も276万トン輸入しているが、その大部分はまずは油の原料となり、その搾り粕はやはり、家畜飼料に回される。スーパーで「国産豚肉」と書いてあったとしても、その飼料の大半、3/4は外国産だ。(データは平成25年「食料需給表」による)
だから、肉、ハム、ソーセージ、乳製品、卵など、各種の畜産物を食べる量を減らせば、それだけ家畜飼料の輸入を減らすことができる。それによって地球温暖化や大気汚染、他国の水不足が緩和されることになるんだ。
この他にも、畜産は地球環境にものすごく多くの負荷をかけていて、ありとあらゆる環境問題と関係しているよ。
畜産が環境を汚染する
アメリカの畜産場で出る家畜の排泄物は年間で6億トン。アメリカ国民の排泄物の130倍と莫大だ。肥料としても使い切れず、約半分の畜糞が自然の循環から切り離されて放置され、悪臭を発したり、河川を汚染したり、地下水を汚染するなどしている。
畜産が地球温暖化を促進する
牛のゲップのメタンガスが、地球温暖化の要因として見過ごせない量になっている。牛に羊や山羊まで加えた反芻動物のゲップと、その糞尿から発生するメタンガスは、地球上で発生するメタンガスの16%に当たる。また、家畜の飼育に付随して発生する二酸化炭素は、総排出量の15~20%にのぼる、とFAO(国際連合食糧農業機関)では見積もっている。
畜産が水不足を招く
アメリカ中西部には広大な穀倉地帯が広がり、トウモロコシや大豆が栽培されて、アメリカ人の胃袋を満たすだけの大量の家畜を養い、大量に輸出もされている。それを可能にしているのは、世界最大の地底湖からの灌漑だ。しかし、今のペースで使い続ければ、今世紀半ばには枯渇してしまうことが予想される。インド、中国、中近東などでも、家畜飼料を含む穀物生産のため、地下水が過剰に汲み上げられている。
畜産が熱帯雨林を破壊する
牛を放牧するために、アマゾンの熱帯雨林が切り倒されたり、焼き払われたりしている。わずかハンバーガー1個分の肉を生産するために、消えていくアマゾンの熱帯雨林は5㎡という計算もある。熱帯雨林の土壌はもともと豊かではなく、植物によって土が守られている、といった状態だ。牛が草を食べつくすと、土は支えを失って、わずかの雨でも流出するようになり、元の森に戻ることはもうなくなってしまう。
畜産が砂漠化を促進する
世界最大のサハラ砂漠。8千年前、そこは豊かな森だったという。遊牧民がその木々を燃やして放牧を始めると、家畜は次第に草を食べつくし、表土は支えを失って、流出するようになった。栄養分の含まれる土壌が減ってますます植物が育たなくなると、土の団粒構造は崩れ去り、水分を維持する力を失う。そして次第に乾いた砂漠へと変化していったんだ。今もアメリカで、中南米で、インドで、中国で、オーストラリアで、モンゴルで、大量の家畜が放牧され、砂漠化を着々と進行させている。多くの古代文明が滅んだ原因も砂漠化であるといわれている。
アメリカ中西部の広大な穀倉地帯がぜんぶ砂漠になってしまったら、どうなるだろう? アメリカ人がおとなしくそのまま滅びてくれるとはボクにはとても思えないね。砂漠でない土地に移住しようと他国に押し掛けていくんじゃないだろうか。日本あたりにも攻めて来て、主な平野はアメリカ人が占拠、日本人は山地に追いやられて細々と焼畑でもしながらかろうじて絶滅を免れる、なんて事態にならないとも限らないよ。そうなってしまって本当によいのかな?
いろいろなことを考え合わせると、今と同じペースで先進国の人間が肉を食べ続けることは、どう逆立ちしても不可能だ。このままただ事態を悪化させて今の文明を終焉させてしまうのか、そうなる前に手を打つのか、ボクラの叡智が今試されているんだ
畜産が人間の食料を奪う
さらに、もうひとつ重要な問題がある。それは、家畜が人間の食料を奪っているということだ。牛肉1kgを生産するためには、その7倍~11倍の穀物が必要とされている。つまり、牛肉を食べずに、その餌の大豆やとうもろこしを直接食べれば、ざっと10倍くらいの人間を十分に養えるんだ。地球の人口約70億人のうち、10億人ほどの人が常に飢えにさらされている。栄養失調とそのための病気で、毎年1100万人もの乳幼児が命を落とす。それなのに貴重なはずの穀物を牛や豚に食べさせてしまっていいのか。もっと多くの穀物を栽培しようにも、開発可能な土地はもうほとんど残されていないんだ。
先進国では食べ過ぎでメタボや糖尿病、ガン患者が増える一方、途上国では飢えに苦しんだり、そのために命を落とす人がいる。このアンバランスな状態は倫理に反する、あってはいけないことなんじゃないか、とみんな漠然と感じてはいると思う。
それをはっきりと明文化してくれているのが、日本国憲法の前文だ。
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」
つまり、全世界の人々が、お腹を空かせることなく生きる権利を持っている、ということだ。だとしたら、ボクらはみな、そんな社会の実現に向けて、努力する義務があるんじゃないのかな。そのためには、穀物を家畜の餌としてしまうのでなく、穀物のまま人間が食べるようにしたい。
地球はウシの惑星
これだけ牛が増えてしまえば、いろんな問題が起こるのも無理はない。
でもお肉もバターも、チーズも、生クリームもやめられない!だって、おいしいから!という人は多いだろう。全部やめる必要はない。でも試しに、ちょっとずつ減らしていってみないかい? 代わりのタンパク源として大豆製品やお麩をいろいろに使ってみよう。また、雑穀も米よりはたん白質が多いし、工夫次第でさまざまなおかずに変身するよ。
〇牛肉だけでもやめにしよう
畜産品の中でももっとも環境への負荷が大きいのが牛肉だ。せめて牛肉だけでも食べるのは控えたい。豚肉や鶏肉のほうがまだ多少ましだ。
〇大豆を利用しよう
豆を煮るのを億劫がる人も多いが、一晩水に浸してさえおけば、あとはコトコト煮るだけだ。和風のお惣菜に限らず、いろんなものに使ってみよう。
〇大豆ミートを利用しよう
大豆たんぱくを加工してお肉のような食感にした「大豆ミート」が売られている。ブロックタイプ、ひき肉タイプ、細切りタイプなど、かたちもいろいろ。いろんな料理に使ってみよう。
〇お麩を利用しよう
小麦のたん白質、グルテンを加工したのがお麩だ。車麩、生麩、板麩などさまざまなタイプがあるよ。
〇豆腐を利用しよう
冷奴、湯豆腐、鍋といったおなじみの食べ方から、油を使った若者向けメニューや、華やかなパーティー料理にまで。可能性は無限大だ。
〇厚揚げを利用しよう
簡単に手に入り、ボリューム感も出せる便利な食材。
〇高野豆腐を利用しよう
和風の煮物以外にもいろいろな料理に使ってみよう。
〇テンペを利用しよう
インドネシアの発酵食品テンペは、大豆を発酵させたものだが、納豆ほどクセがなく、肉代わりにいろいろな料理に使える。日本製のものが、自然食品店や大きいスーパーで売っているよ。
〇豆乳を利用しよう
牛乳の代わりには豆乳を利用しよう。飲みものに入れて、あるいはホワイトソースやクリーム煮などのお料理に使ってもいい。ヨーグルトも豆乳でつくれるよ。
〇雑穀を利用しよう
雑穀は米と比べるとたんぱく質が豊富だし、鉄や亜鉛など現代人に不足しがちなミネラルも多い。炊き方や料理の仕方次第で変幻自在に形を変えてくれるのも魅力だ。雑穀を主菜やスープ、お菓子などに利用すれば、栄養たっぷりでバラエティに富んだ食生活が楽しめる。
などなど、工夫次第で可能性は無限大。和食だけじゃ飽きちゃう、などという心配は無用だ。