有機食品、という言葉には法的な定義があるんだが、ここで言いたいのは(厳密な規格は別にして)とにかく「農薬や化学肥料を使わずに育てられたお米や野菜、それらを原料にした加工食品」を選んでほしい、ということだ。なぜならば農薬は(そして化学肥料も)、環境汚染のひとつの要因だからだ。
農薬は生物の体を蝕む
農薬は雨で流れて、土に浸み込み、川へと流れ込む。その先にあるのは海だ。農薬は海流に乗って、世界中へと拡がっていく。農薬入りの海水の中で植物性プランクトンが育ち、その農薬入りの植物性プランクトンを動物性プランクトンが食べ、それを魚が食べ、それをもっと大きな魚が食べ、鳥が食べ、というふうにして、農薬はどんどんと濃縮されていく。
そうした食物連鎖の頂点にいるのが、北極海ではアザラシやホッキョクグマだ。そして田んぼも畑もない北極で、ホッキョクグマの体が農薬に汚染されるということが現実に起きている。それらの動物の体を調べると、農薬DDTなどの化学物質の蓄積が多いほど、免疫力が低く、甲状腺機能も低下している、という報告もある。雌雄同体など奇形のホッキョクグマが近年発見されるようになったのも、海水中の化学物質が関係していると見られているんだ。
とは言っても、農薬以外の化学物質の影響のほうがずっと大きいでしょ? 環境汚染の元凶といえば、やはり工業でしょ? と思う人も多いだろう。
でも、地球上で最悪の環境汚染の原因物質として指定されたPOPs(残留性有機化合汚染物質)21種類のうち、なんと13種類までもが農薬とその関連物質なんだ(POPs一覧表はこちら)。農業が環境汚染の元凶のひとつであることは否定のしようがない。
POPsの代表はPCB(工業用の化学物質)と、DDTという農薬だ。戦後進駐軍が子どもの頭にシラミ取りのための白い粉をかけている映像を見たことがあるかな? あの白い粉がDDTだ。それ以前に使われていたヒ素系農薬は、ちょっと使い方を間違えると農家が死んでしまうほど危険なものだったんだが、DDTは頭からかけてもすぐに死ぬなどということはない。だから人体には害のない、安全な農薬だ、と最初は思われて、「夢の農薬」だなんてもてはやされた。
でもこの農薬が第二次大戦後に使われるようになって、10年、20年とするうちに、野生動物がおかしくなり始めた。鳥の卵の殻が薄くなる、雛がかえらない、かえってもすぐに死んでしまうといった事態が観察されるようになったんだ。その結果当然、個体数も減少していった。
その最大の原因が農薬などのPOPsだと考えられている。
これはまずいぞ、となって、1972年、先進国ではPOPsの使用は禁止された。しかし、POPsはなかなか分解されないため、ずっと地球環境の汚染は続いている。海から蒸発した蒸気は雨となって大地に降り注ぐ。ヒマラヤのてっぺんであろうと、広大なサハラ砂漠であろうと、どんな前人未到の地だって、POPsに汚染されていない場所はもはや残されていないんだ。
農薬が生物多様性を破壊する
DDT以外にも、人類は次々に「夢の農薬」を開発しては、何十年も経った後に、その危険性に気づく、ということを繰り返している。今、特に問題視されているのはネオニコチノイド系農薬だ。
この農薬が1990年代から広まってきたせいで、今、世界中のミツバチが激減しているんだ。2006年だけで、北半球のミツバチの1/4が、忽然と姿を消してしまった。
日本でトンボを観察している人の話によれば、トンボも1990年代から減りはじめ、2000年頃からさらにガクンと減って、今は100分の1くらいにまで減っしまったと見られている。人間が普段気にも留めないような多くの虫たちも同様に激減している可能性がある。
ネオニコチノイド系農薬はPOPsと違って分解は早いが、昆虫には強い毒性を発揮する農薬だ。(感受性の違う人間その他の哺乳類・魚類に対しては毒性は低い、ということになっているが、本当は人間にも害がある)。この昆虫に対する毒性の高さゆえ、害虫以外の虫までもが、大きな被害を受けるようになってきているんだ。
ネオニコチノイド系農薬は昆虫の神経系に作用し、記憶喪失、食欲減退、方向感覚の喪失、免疫系の崩壊を招く、とされている。ボクが2009年に千葉県の農家で見た蜂もまさしくそうだった。餌のある方角を覚えて仲間に伝えるほど賢いはずの蜂が、入ってきた窓から出て行けなくなり、無目的にウロウロ、ノロノロと大量に、百匹近くが窓際を歩き回っている。窓の下には大量の死骸もあった。
このままではミツバチは絶滅してしまうんじゃないかと危惧されている。多くの果樹農家は受粉をミツバチに頼っていて、わざわざ何千キロも遠くから運んだり、海外から輸入したりして利用している。ミツバチがいなくなると、果樹農家は受粉ができずに困ってしまう。でも問題はもちろんそれだけじゃない。
この地球上にさまざまな種類の生きものがいて、食いつく食われつし、あるいは互いに助け合うことで、生態系は守られている。昆虫が激減すれば、それを食べるカエルや鳥も生きていけなくなり、植物も(虫媒花は)実を結ばなくなり、地球の生態系は崩壊する。「生物多様性」(生物の種類が豊かであること)こそが人類の生存基盤だ。
人間の使うネオニコチノイド系農薬で、すべての蜂がいなくなったとき、人間もまたこの世から姿を消すだろう。これは人類自身の存続に関わる大問題なんだ。
~~~~~コラム・日本の農薬規制は企業優先!?~~~~~~
蜂が激減している状況を憂慮し、EUでは2013年12月にネオニコチノイド系農薬3種の使用が中止された。ところが日本では、同じ時期、逆にこの農薬の残留基準を緩和しようとしたんだ。ちなみに禁止された3種のうちの1種、クロチアニジンを「ダントツ」という商品名で売っているのは、住友化学だ。住友化学がどういう企業かはここにも書いたので参考にしてほしい。
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死の商人がもたらしたものVs.命を育むもの
いつかは人間にも環境にも害のない、本当の「夢の農薬」ができる、なんていうふうには、ボクにはとても思えない。虫も人間も、鳥も魚も、同じ地球上に発達してきた生きもの同士。体のメカニズムに根本的な違いはないからだ。
そもそも農薬も化学肥料も戦争の生み出した副産物だということを、キミは知っているだろうか? 化学肥料の前身は第1次大戦時に初めて工業的生産が可能になった火薬だ。農薬の前身は第2次世界大戦で発達した毒ガスだ。戦争が終わって使いみちがなくなったため、農業に転用されるようになったんだ。
そんな死をもたらす化学物質を使って、生命力豊かなお米や野菜が本当に育つと思えるかい?
ボクらの体は細胞ひとつひとつまで、全部食べたものでつくられる。ボクらの命を支えてくれるのも食べものだ。その食べものは、やはり生命力豊かなものであってほしいと思うよね。
農家の方向を決めるのはキミだ
キミの健康のためにも、人類の生殖能力をこれ以上低下させないためにも、蜂たちの命を救うためにも、世界中の魚や鳥やホッキョクグマを守るためにも、そして生物多様性という人類の生存基盤を守るためにも、この地球上でこれ以上の農薬が使われないようにしたい。
自分で米や野菜を育てるのが一番確実だけれど、そこまではできない、という人は、農薬を使わずに育てられた米や野菜を買うようにしよう。
キミが農薬の付いた野菜(スーパーで「有機」と書いていない野菜はほぼ100%農薬が使われている)を買うとき、キミは無意識のうちに、農家に農薬の使用を奨励していることになる。それが売れるからこそ農家はつくるんだ。
もしもキミが農薬を使用していない野菜を買えば、農家は喜んで、また農薬を使わずに野菜をつくる。そのほうが高くても売れる、となれば、他の農家も次々と農薬を使わずに、有機農業をやり始めるだろう。
有機農産物を買うことによって、有機農家を支える。それによって農薬の使用を減らす。それがこれ以上の環境汚染を食い止め、野生動物の命を救い、さらには人類自身の存続をも確かなものとしてくれる。地球規模で農薬の影響を考え、有機農家を買い支えるようにしていこう。
「 殺さない農業」「命の味方になる農業」を支えて、すべての命との共生をめざそう!
〇スーパーでは有機JASマークのついた野菜を
農薬や化学肥料を基本的に使わないなど、いくつかの条件を満たし、第三者機関による認証を取ったものだけが有機JASマークを付けられる。大きなスーパーでは野菜売り場に有機JASコーナーを設けるところが増えているので、積極的に利用しよう。
また、有機JASでも例外的に使ってもいい化学合成農薬や肥料が定められているため、農薬を全く使っていないとは限らない。(リンク「有機農産物の日本農林規格」別表1・2参照)
〇信頼できる農家から直接購入
有機JAS認証を取るのはお金がかかるため、農薬も化学肥料も使わないけれど、認証は取らない、という農家も多い。また、化学肥料だけでなく、有機肥料も使わない、というこだわりを持った農家もいて、自然農法、自然栽培、無肥料栽培、循環農法などと呼ばれている。
そうした信頼できる農家を見つけ、直接取り寄せるのはもっとも確実な方法だ。
こんなFaceBookグループも参考にしてほしい。「自然栽培全国農家直売」
https://www.facebook.com/groups/452476101528880/
〇生協やその他の宅配を利用
有機野菜や有機加工食品を積極的に扱う宅配業者を利用するのもいい。生協でも一部で有機野菜を扱っている。大地を守る会、らでぃっしゅぼーや、ビオマルシェ、PALシステム、東都生協、生活クラブ生協などがある。
〇自分で栽培
庭のない人でも、プランターで野菜を栽培したり、バケツで稲を育てることもできる。市民農園などに区画を借りるという方法もある。収穫量はわずかでも、作ることには意義がある。土や作物、自然との触れあいを楽しんだり、農家の苦労を実感したり、同じ趣味の仲間が増えて行ったり……と多くの副産物が得られることだろう。
〇農家と「提携」・「トラスト」に参加
産地と消費者が直接提携するグループは全国各地に存在していて、大豆畑トラストとか、水田トラストなどと名のつくところが多い。年会費いくらかを払って会員になり、その畑(あるいは田んぼ)で採れた収穫物を会員全員で平等に分け合う、などというものだ。収穫は天候によって多かったり少なかったりするが、どんな時でも農家は会費によって一定の収入を確保できる。そうすることで農家の生活を支えよう、そしてできるだけ農薬や化学肥料を使わずに安全なお米や豆などを作ってもらおう、というものだ。
会員になったら、できれば年に何回かは訪れて、田植え、草取り、収穫など、農作業の手伝いができるとさらにいい。そうすることで、自分の食べるものがどうやって作られているかがわかり、食べもののありがたみ、農家の苦労、自然の循環などさまざまなことに今まで以上に考えが及ぶようになる。
地球の人口は増え続けるのに、日本では食料自給率が下がっていき、この先食糧難の時代が必ずやってきて、日本でも餓死者が出る可能性があるといわれている。そんなことにならないよう、最低でも米と大豆くらいは必要量を確保しておけるようにしたい。トラスト運動に参加しておけば、いざという時の確実な命綱となるだろう。
参考例: